夏姫たちのエチュード
          〜789女子高生シリーズ

           *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
            789女子高生設定をお借りしました。
 


       




 さて、いよいよのフェスティバル当日がやって来た。今日もやっぱり、朝っぱらからじんわりと蒸し暑い中、会場になるのはお店の並ぶ半地下の通路や広場。前の晩から飾り付けに勤しんでた皆様が、今度は朝早くから、屋台風の店で出す料理の仕込みにかかっておいでで。大きな鉄板の試し焼きか、キャベツやニンジン、豚バラなどなど、小手を手際よく操ると、香ばしく炒めておいでの屋台をのぞき込んだのが、

 「うあ、いい匂い。」
 「おや、お嬢さんたち早いねぇ。」

 まずはの第一陣として到着したのは、ローディー担当のお姉様3人娘たちであり。アンプや何や、普段は広場の一角にある用具入れへ押し込むところだが、昨夜はそこも何かしらの荷物で一杯になっており。さりとて出しっ放しは何だか不用心だからと、七郎次が再び実家から人を呼び、朝まで持ち帰っていたそれら、

 「今から設置に取り掛かるんですよね。」
 「ほほぉ、でも何か…大きいね。」」

 そうそう。いつものは練習に使ってるスタンダードのですけれど、

 「今日のはライブ用、容量の大きいのを持って来たのですよvv
  何せスピーカーもつなぎますからね。
  そっちも、広場じゅうに聞こえるようにって、
  いい音が広がるタイプのを選んで持って来ました。」

 にっこり微笑った平八が胸を張ったのは、何を隠そう彼女が様々に工夫を凝らした逸品だったから。アンプは見た目こそ似たようなもんだと思われるかもですが、変圧機能に特別な工夫がしてあるので、アンペア耐久もこの大きさでは信じがたいレベルまでOKで……とか何とか一応は教えられていたものの、

 『………久蔵殿、理解出来ました?』
 『〜〜〜。(否、否、否)』

 七郎次も、前の“生”でこそ斬艦刀の操縦を手掛けた身なれど、操作法は知っていてもシステムまでを把握しきってたワケじゃない。久蔵に至っては、そもそもからして刀さばきにのみ偏ってた練達だから、機械関係は相変わらずにさっぱりで。よって、セッティングでは単なるアシスタントに徹しようとの打ち合わせの下、少しでも早く取り掛かった方がいいだろうと話もまとまり、この早々としたご出勤と相成った。気のいい女将さんから“味見するかい?”と小皿に焼きそばを盛ってもらい、遠慮なくいただいておれば、

 「うわぁ〜。」
 「すごい、綺麗〜〜〜。」

 モールやリボンやで飾られた通路の綺羅々々しさへ、お口をあんぐりと開けている、バンドのメンバーがご到着。

 「あらまあお早い。」
 「演奏は夕方間近い頃合いからですよ?」

 そんなお声をくださった、先にお越しの先輩方へ、あわわと背条を延ばして“ごきげんよう”とご挨拶をし、

 「あのあの、何だか興奮しちゃってて。」
 「早く起きちゃって、そこから寝れなくて。///////」

 ちょっぴり目元が赤い子もいて、日頃からもお客さんのいる演奏はこなしていように、格別のライブという意識で緊張し切っているのがまた可愛い。

 「あ、わたし寝られなかったもんだからお弁当も作りました。」
 「おいおい。」
 「後で少し仮眠しなさいね。」

 お説教じみたお言葉をたれつつも…差し出された楕円形の小さなタッパウェアには、ついつい目がいく。だって、

 『うあ、かわいいvv』
 『そおっかー。これが女子高生のお弁当かー。』
 『……vvv』

 幼稚園児用ですか、さては妹さんのと間違えましたかと思うよな。プラスチックの持ち手つきの 先の丸いフォークで食べる、エビピラフを玉子で巻いた小ぶりのオムライスやら、五角形の海苔をちりばめたサッカーボール型のおにぎりやら。ウズラの玉子にゴマで目をつけた仔うさぎに、蛇腹切りのキュウリは輪にしてピックで留めて、真ん中には魚肉ソーセージを嵌めてお花にし。のり巻きだけじゃあ詰まらないからと、薄焼き玉子で巻いたご飯を輪切りにしても可愛いったら…などなどと。これでもかという萌えの集まりだったのへ、そういうのへ慣れがなかったお嬢様がた、どんなにビックリなさったことか。

 『アメリカには基本的にお弁当を持って学校へ行く習慣はありません。』

 最近、キャラ弁とかが流行ってるそうですが。食材が傷むので、せいぜいジャムサンド程度の腹ふさぎを持ってくくらいで、普通は小学生から既に食堂で食べてますし、それをそのまま大人まで続けます。売店がないところへのピクニックや、キャンプ前提のアウトドアスポーツででもない限り、食べ物も用意して持ってくという観念はないらしい…と語ったのが 赤毛のひなげしさんならば、

 『ウチのお弁当はお重箱だから。』
 『………。(頷、頷、頷)』

 別に全部食べ切らなくともと言われちゃいるが、それでもきっちりと、塗りも品のいい小ぶりのお重に詰まった二段重ねの幕の内を、一応は食べ切るのが普通という七郎次に。兵庫先生から偏食を直せと言われて以来、薬だと思って好き嫌いなく全部を食べ切る、薄味和食メニューの折り詰め弁当と、ずっとお付き合いの続いている久蔵なので。見た目に“かわいいvv”がまず前面に出ているファンシーなお弁当なんて、お子様ランチ以上に風の噂でしか知らなかったらしい。そこで、おかずのトレードをするのが、この数日のお決まりイベントと化してもいて、

 「今日のは、カニかまで作った鯛の尾かしら弁当です。」
 「わあ、ゆっこちゃん相変わらず器用だ〜vv」
 「アタシは きぃちゃんのお母さんお手製の肉団子が好きvv」
 「……。//////」
 「久蔵殿ってば、
  あいちゃんチの卵焼きが甘いのに一目惚れですものね。」
 「さちのも。」
 「サッチちゃん、です。」
 「そうそう、
  サッチちゃんのお母さんの高野どうふ、
  何で冷めてもふわふわなの?」

 きゃわきゃわと他愛ない話題に笑み崩れている様子からは、とてもじゃあないが…窃盗団を大向こうに回しての活劇もどきや大騒ぎ、幾つも踏み越えて来た じゃじゃ馬3人衆とは見えないから不思議。

 「さぁあ、今日の本番、無事にやりおおせましょうねvv」

 おーっというエールのお声には、ついついだろう、女将さんたちも混ざってのなかなか頼もしい鬨
(とき)の声となったのでありました。



       ◇◇




 ここの半地下の広場からビル2棟分の地下街を経て、JR駅の地下部東改札前までがつながっていて。その取っ掛かりにあたる こちらのほうが老舗だというに、駅ビルそのものやすぐ向かいのファッションマートのほうへばかり客を取られての閑古鳥。シャッターさえ上げない店もあったところが、この夏はかすかながらも…復活の兆しという客足が、可愛らしいロックバンド娘と共にやって来たものだから。この流れを逃すまいとの祈りとお嬢さんたちへの恩返しを兼ねて。縁日みたいな出店の居並ぶ、ゲームやカラオケ大会もありますという小ぶりの夏祭りが催され。陽の暮れどきの訪のいと共に、皆様お待ち兼ねのミニライブが始まりますとのアナウンスが聞こえ、わぁと詰め掛けてくださった聴衆の数は、広場から通りへ上がるステップだけでは客席が足りないほどにもなり。大慌てで閉鎖中の文化教室からもパイプ椅子を持って来て並べ、それでも間に合わなかったお人たちは、すみませんが立ち見でという格好で通させていただいて。

 【 わたしたちには夏休み最後の夜です。
   慣れない練習中から ずっと応援くださった皆様と、
   いろんなことがあった夏を一緒に名残り惜しみつつ、
   今宵は楽しい一時を過ごしましょうvv】

 マイクを通したお声でのご挨拶があり、スピーカーやアンプを置いた傍らや奥向きに、少女たちが立っている姿が間接照明の明かりの中に浮かび上がる。さすがに今晩だけは…大勢の人が集まる催しとあって、客席とステージとの境目を示すためだろう、モールを鎖の代わりにして渡してつないだポールが幾つか並んでいる。そうやって距離を取った結果、随分と奥向きに立つ彼女らは、天井の明かりだけでは姿の輪郭くらいしか見えなんだだろうが、臨時にと置いたらしいスタンドライトが、お嬢さんたちの可憐な姿を浮かび上がらせていて。

 「…サンバイザー?」
 「光のそば過ぎて、向こうは眩しいんじゃない?」

 今時の女子高生には珍しく、どの子も染めずに黒髪のまんまにしているその髪形が微妙に違うのと、それぞれの楽器のポジションとから、馴染みのファン層には別にくっきりと姿が見えなくても支障はないようで。

 「ゆっこちゃんっ。」
 「きぃちゃん、頑張れ。」

 声援が飛ぶ中、キーボードのゆっこちゃんとベースのあいちゃんとがお顔を見合わせ、頷くことでカウント取っての、

  ―― 3、2、1っ。

 たんっと弾けて始まったは、ボーカルギターが刻むメインの旋律と、それを低音で支えるベースの響きとが印象的な、お元気な少女グループが昨年ヒットさせた、鉄板夏ソング。日頃はマイクなしの歌声も、今宵だけは特別に。ギターに負けない音量で場内へと流されており。ちょっぴりか細いがそこが可憐な少女の声が、2つ3つと重なり合う。元気を出せ出せというノリの歌なせいだろう、聴衆の皆さんもビートに合わせて腕を振り上げたり体を揺すったりと、早くも仲間入りしかかっている気配に染まりつつあった広場だが、

  ―― その嵐は いかにもな無体に相応しく、唐突に押し寄せて

 聴衆に混じっていた狼藉者が何人か。わっと躍りかかって来たは、いつもの見張りの少女らの姿が混み合う広場の何処にも見当たらなかったからだろか。だがだが、他のお客がきゃあと叫びかかった声までも、乱暴な雄叫びと一緒くたにして搦め捕ったのが、

 【 きゃあ、なになさるのー。】

 妙に一本調子な台詞回しのお声の響き。マイクを通したよく通るお声は、場内の騒然と仕掛かっていた雰囲気をぴたりと押さえ込むのに十分なほど……不自然で。なんだ何だ、暴漢が飛び掛かってったんじゃなかったかと、うわっと立ち上がった声が尻すぼみになってゆく中。躍りかかられたはずの少女らが、それぞれの手にしていた楽器を振り上げたり、ネックの部分から何か引っ張り出して、その棒でしたたかに相手をたたき伏せたりしていたから、それを目撃しちゃった皆様の驚きは…

 「え…っ☆」×@

 これまた半端ではなく。
(笑) しかも、それが合図だったのか、広場中を昼間のように かかっと灯したのが、打って変わってのずんと明るい照明で。

 【 は〜い、ビックリどっきりコーナーでしたvv】

 何だ何だと場内がざわつくより前に、再び軽快なお声が響いたかと思ったら。一番手前、ボーカルギターの立ち位置にいた黒髪のショートカットのお嬢さんが、その髪をバイザーごと帽子のように脱ぎ去って。

 【 皆様お待ち兼ねの、ガールズ4の演奏前、
   余興を一席設けさせていただきましたvv】

 やたらとはきはき語るお嬢さんは、ちょっぴり乱れた自前の金髪を、片手でちょいちょいと直しつつ、

 【 何たってライブなんて初めてのこと、
   皆して随分と緊張なさってるんですよね。
   あ、今流れてたお声は本物の彼女らの声ですよ?
   え? 判ってた、そちらのお姉様、お耳が高い!】

 茶目っ気たっぷりなお喋りには、思わずながらも どっと場内が沸いた。そんなトークが繰り出されていた隙にも、彼女らがそりゃあ鮮やかに叩き伏せての足元へと踏み付けていた乱入者たちは、商店街のおじさまたちによる排除でしっかと連れ去られてしまったので、

 【 さあさ、それでは今度こそ本番。本物にご登場願いましょう!】

 どうぞと、サッチちゃんもどきのお姉様が右手を高々と差し上げれば。用具室を突貫で改装した小部屋から、エキゾチックなプリント柄で襟ぐりに同じ布のフリルが波打つガーリーな色違いTシャツに、なめらかなドレープが可愛らしいキュロットスカートというお揃いのいでたちをした、真打ちの4人組が登場し。きゃあ可愛いとの歓声が飛び交う中を、あらためての前奏が小気味よく流れ始めて。入れ替わりで退場してゆく前座のお姉様がたは、それぞれにほうと吐息をつくと、安堵のお顔を見合わせる。

 『だってホントなら演奏のほうでも参加したかったくらいだし♪』
 『…しちさん?』

 一昨夜という本当に直前になって、この“替え玉大作戦”はどうだろかと言い出したのは、他でもない七郎次で。その時点で襲撃の恐れは織り込み済みだったから、か弱いお嬢さんたちの代理を演じ、体を張ることへの異議はないものの、ピアノを弾ける久蔵はともかく、あとの二人は楽器なんて縁がない。

 ―― まあ、フリだけでいいのなら、
    それほど突飛なことをしない限り、誤魔化しようもありますが。

 そういうことでと、それぞれの立ち位置を決めて、一人足りないのはマネキンでも立てますかと。一番動きの少ないキーボード担当のお人形をと、大急ぎで検討に入りかかった平八の手を止めさせたのが、先の白百合様の一言で。

 『剣道一筋のシチさんでしょうに、何か弾けるのですか?』

 基本だけならピアノを少々、とかですか?と。平八が訊いたところ、

 『何いってますか。アタシゃ、これでも三味線は得手だったんですよ?』
 『…………もしもし?』

 こう、ツテン・トンシャンと…なんて、棹に手をすべらせる所作をやって見せ。冗談ごとではなさそうなノリでいたお姉様だったとは、さすがに言えなくて。そこのところもまた、今日まで黙っていた、ひなげしさんと紅バラ様だったりしたのであった。






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